スロウが売りのカフェでその長い待ち時間の間、ひとりの中国人と出会うことがあった。
トリップというと大げさな気はするけど、僕は彼と出会い、翌日片道1時間ほどのショートトリップへ出かけることになった。
街で出会う
日常生活において、日本の街で他人と話すことはほとんどないと思う。
旅行であったりお酒の場であれば別かもしれないけど、とにかく欧米諸国に比べると、出掛けた先で人と出会うことは少ない。
一方タイでは、僕は外国人ということでタイ人に話しかけられたり、同じマイノリティである外国人同士でちょっとした会話をする機会はそこそこある。
ただ今回この中国人の彼と話し、趣味を通して翌日一緒にどこかに出掛けることは、タイ生活でも初めてのことだった。
渋谷 宇田川町のレコードショップ街
この記事を書くきっかけとして、ひとつ思い出したことがある。
90年代の渋谷で、レコードショップが並んでいた宇田川町の話。
何かの雑誌(エレキングかスタジオボイス)の対談で、趣味を通して街で出会うことは、この渋谷のレコードショップ街ぐらいしかないという話で、対談が盛り上がっていたことを思い出した。
その当時、そんなに出会いないかなーと回想してみたが、第三者同士が出会うということは確かに皆無だった。
友達を通してなど、クラブやライブハウスで知り合うことはあっても、第三者同士となると、ナンパや酔っ払っていた時など、例外的な出会いぐらいしか思い出せなかった。
この対談で言われている出会いはもっと日常的で、例えばレコードショップに行けば、必ず誰かと少しぐらい会話を持つ機会があり、話が進めばそれをきっかけに遊ぶようになったりするというニュアンスだった。
コーヒートリップ
僕と彼はオープンして間もないカフェの店先で、タバコを吸いながら挨拶より少し深い程度のことを話し、バンコクでコーヒーが美味しいカフェの情報をいくらか交換して別れた。
彼はコーヒーが美味しい、主にロースターのカフェを毎日はしごしていた。
インスタも交換していたので、家に帰ってからカフェで話したお店の地図を送り、その中に1つ遠い場所のカフェの情報が入っていた。
そしてお互い遠慮しながら、その遠いカフェへ一緒に行こうという話に流れて行った。
翌日昼過ぎに彼の運転する車の助手席に乗り、中国での生活のことなど話している時にふと渋谷のレコードショップの話を思い出し、今ではなくなってしまったそのレコードショップ街と、リアルにしか存在していないカフェでの出会いに嬉しくなってしまった。
そう、ただそれだけの話で、このコーヒートリップには特別なことは起きない。
ただ折角書き始めたので、他愛もないお出かけの話と、中国人の彼について書き続けてみたいと思う。
成都に住む先生 兼 カフェオーナー
彼の名前はZhou(ジョウ)といった。
彼は現在中国の西にある成都で先生をしていて、中国の旧正月である春節で1ヵ月の休みでタイを訪れていた。
しかも1ヵ月すべてバンコクに滞在し、この1週間毎日2件ほどカフェを訪れているとのことだった。
彼は先生でありながらカフェを2件経営していて、勉強のためにいろんなお店のコーヒーを飲んで回っていた。
また奥さんと一緒にバンコク来ていて、奥さんはこれから1年間かけて、MBAの資格をタイの大学で取得するので、休みの間はバンコクに居るとのことだった。
ちなみにMBAの取得は中国では費用も難易度も高いが、タイは受講して金さえ払えば、基本受かるとのことで、中国人の多くがタイでMBAを取得しているとのことだった。
彼は25歳で先生として働きながらカフェをオープンし、30歳で2店舗のオーナーだ。奥さんも1年後にはMBAホルダーとして、中国で良い職に就くのだろう。
やはり中国人のこうした行動は文化としか言いようがない。やりたくても日本人には中々できない行動だと思う。
ポリスとカフェ
見た目あどけなさが残りつつも、20代で結婚、カフェのオーナーと、しっかり者の印象を受けたが、カフェに行く途中に警察に止められた。
その時に顔を赤くしながら平然を装う彼の姿は、実年齢より若く見えアジアの青年そのものだった。
数々のコンテストで受賞しているカフェだったが、僕らの期待に沿うものではなかった。
グラブとタイ料理嫌い
ジョウは英語が得意ではなかったので、僕が聞き手になり、ノンタブリー県に近いカフェとの往復で3時間ほど話をした。
お互いの共通言語レベルが高くないので、踏み込んだ会話はしていない。そのせいか、あまり会話の内容を覚えていないが、タイ料理が嫌いで、毎日ハンバーガーとかパンを食べていると言っていたのが印象に残っている。
バンコクに来てまでタイ中華を食べるのも確かに違う気がするが、極端だなと思った。
日本人が柔軟すぎるだけかもしれない。東京のゲストハウスに住んでいた時、マクドナルドとピザばかり食べている欧米人は多かった。
カフェに食べ物をまったく置いてないことが分かると、ジョウはすぐさまGrabで注文を始める。
お店に来るまでに見たタイ料理屋に誘ったが答えはもちろんNOで、カフェで食事をしようと話していた。
いや、いくらタイでもこういったお店で許可なく持ち込みはダメでしょ。
僕がカフェの店主に訊くと、ノーゲストなのでと渋々了解してくれた。
「中国でもいつも持ち込みするの?」
「いや、、、中国ではしないよ。。」
ジョウは顔を真っ赤にしながら、そう答えた。
そういうところはやっぱり中国人だなと思った。