タイに住み始めてからというもの、まとまった活字を読まなくなりました。読書の秋とはよくいったもので、毎日夏の気候のタイと読書って、あまり相性が良くないですね。
そんな有様なので、タイ文学を読んだことも意識することもなかったのですが、タイ人の最注目作家と思われるプラープダー・ユンの作品が(小説ではない)が、日本語翻訳されたということで、ネタバレしない程度に紹介していきたいと思います。
プラープダー・ユン
プラープダーについては、wikiを抜粋・加筆させてもらいます。
兵役終了後、プラープダーは様々な雑誌で短編やコラムを書き始める。またテレビ番組や映画の脚本も行い、タイの絹織物商ジム・トンプソン失踪を扱った「絹の結び目(ปมไหม) 」、浅野忠信主演『地球で最後のふたり』(2003)、『インビジブル・ウェーブ』(2006)を手掛けている。
2002年、29歳の時に『存在のあり得た可能性』で東南アジア文学賞を受賞。
2003年~2007年『EYESCREAM』、2008年~『エスクァイア』誌でエッセイを連載している。日本の文化への造詣も深く、たびたび日本を訪問している。
https://ja.wikipedia.org/wiki/プラプダーユン
プラープダーはタイの富裕層で、90年代にアメリカでオルタナティブなカルチャーに興味を持ち、00年代にタイのポップカルチャーやサブカルチャーを牽引するひとりとして、有名になった作家です。
そのため、タイ人でありながら割と日本人に近い感覚も持っていて、今回紹介する本は、タイ人の本を読む最初の一冊としては、かなりとっつきやすい本だと思います。
「新しい目の旅立ち」
この作品は旅の紀行文であり、プラープダーが造詣の深い哲学的な思考を巡らせる旅の本でもあります。
作家になり8年。引き出しの中にある知識(本を書き始める26歳まで)を使うことに飽きてしまった。
そして新たな引き出し、もしくは別の棚という哲学を求めて、フィリピンにある黒魔術で有名な「シキホール島」を目指すことになります。
プラープダーの興味は、神や人、自然の存在に隔たりはなく、全ては精霊が宿ったものという汎神論の哲学者であるスピノザ、人間以外の存在に魂や霊の存在を認めるアニミズム(精霊信仰)や神道にあります。
つまり現代社会で失った思考を、黒魔術が残るような古代的(非文明的)な島を通して新たな目を発見しようと期待する旅。それはもちろん行動としての旅ではなく、彼が新しい目という哲学や見識を発見するための思考を巡る旅というのが、メインの内容となります。
日本人読者としての見所は、タイ人であり、タイのサブカルチャーを経由した作家が、哲学的な要素を使って描くプラープダーの思考や文章にあると思います。
また黒魔術の島「シキホール」という、旅行記として魅力的な響きと、その真相を知れるところだと思います。
またプラープダーの小説や東南アジア文学が、本作の翻訳家である福冨 渉さんも制作に参加していた「SOUTHEAST ASIAN LITERATURE」から無料ダウンロードして読むことができますので、サイトの方も見てみてください。